ケインズ経済学を理解しよう③【利子下げよう編】
前回:ケインズ経済学を理解しよう②【限界消費性向 編】において、ケインズの考えをざっと書き出しました。
今回は、そのうちの民間投資における部分を具体的に取りあげてみます。
スポンサードサーチ
民間投資を増加させるには
投資の中には、民間投資と政府支出があることは前回説明しました。
そのうち政府支出は、政府が税金などによって行うため、問題無いとしましょう(市民からの反対あるかもしれないが、それは置いておく)。
しかしながら、民間による投資はそう簡単にはいきません。
利子を考えなくてはならない
例えば民間の企業で、何か新しい設備を買う事を考えてみましょう。
その設備を買う時に、企業の貯金(内部留保)のみで賄えることは非常にまれです。大抵は、銀行から融資(お金を借りる)することで、設備投資できます。
お金を借りるという事は、返す際の利子も考慮しなければなりません。
もう少し突っ込んだ考えをすると、設備投資によって生み出す利益が、融資された額と利子(%)を上回っていなければなりません。
設備投資によって生み出す利益を、資本の限界効率(%)といいます。
そして、この資本の限界効率が利子率を上回るときに、企業は設備投資を行うのです。
$$ {\huge m_{資本の限界効率%} > r_{利子率%} }$$
この資本の限界効率mには計算式があるのですが、今回は省略します。
※しかし、このように計算で比較する企業もあれば、経験と勘で設備投資するところもあると思います。
そして、裏を返せば、
この利子率が高ければ高いほど、企業は投資しにくくなります。
$$ {\huge m_{資本の限界効率%} < r_{利子率%}↑ }$$
利子率を下げるには?
では利子率を下げるにはどうすればいいのでしょうか。
それには『利子率と債券価格』、『利子率と社会に出回っているお金の量』が関係しています。
利子率と債券価格
まずは、利子率と債券価格には関係があり、利子率が高いと、債券価格が安くなり、利子率が低ければ差権価格が高くなります。
利子率が高い原因は『借金を返せる可能性が低いため=リスクが大きい』です。反対に、『こいつにお金を貸しても戻ってくる可能性が高い』と、利子は低くなります。
そして、利子率が高くなると、現金ではなく債券を持っておく方が得になります。リスクはありますが利子が増えるためです。
反対に、利子率が低くなると、債券を持っていた人は現金化した方が得になります。上のグラフから、利子が前回より下がると債券価格は上がります。そのため、買った時よりも値上がりしているため、売りに走るわけです。
利子率とお金の量
そして、この利子率は、社会に出回っているお金の量とも関係しています。
お金が世の中から少なくなれば、利子率が上昇し、多くなれば利子率は低くなります。
そして、今なって欲しいことは、利子率を下げたいのでした。
なぜ利子率を下げたかったのかというと、企業のによる投資の許容を下げるためでした。
利子率を下げれば、企業の投資がより活発になることが予想され、その後は以下の図のようにインフレへと向かうはずです。
スポンサードサーチ
ここで政府に登場してもらう
利子率を下げるためには、お金の供給が必要です。
そこで、GDPの政府支出として市場にあふれている債券を、政府に買ってもらう事で、市場にお金を供給します。
まず、下の図を見てください。お金を借りたい企業と、お金持ちの投資家です。
企業はお金を借りる代わりに、金を借りた証明書として、債券を投資家に渡します。
投資家目線からは、債券を買ったという表現をする時もあります。そして、企業から見たときは、融資を受けると表現するときもあります。
政府と投資家との間は市場と呼ばれ、そこにお金を持った政府が登場します。
政府は、企業と投資家の枠内にある市場とは外にある存在です。
ケインズ経済学の特徴は、政府による介入ある点です。
それまでのアダムスミス派と呼ばれる経済学者は、自由放任主義(市場にすべてまかせる主義)であるため、政府介入はありえないという考えでした。
そして政府は、政府支出によって市場にある債権を購入します。
こうすることで、社会(市場)にあるお金の量が増えます。
また、利子が下がることで、それまで債券を保有していた投資家は『売った方が得になる』ため、債券を売り始めます。さらに市場にお金が供給されます。
そして、市場にお金の量が増えることで、利子率が下がるため、以降の資本の限界効率の障壁を下げる結果となります。
まとめてみましょう。
注目すべき点は、『民間投資を上げたい』というところです。
そして、『融資をしてほしいが、利子が高止まりしていると投資が滞る』ため、政府による市場介入が行われます。
ケインズ経済学のまとめ
これまでのケインズ経済学をまとめてみましょう。
始まりは、『世の中にモノがあふれて、売りたいがために各企業がモノの値段を下げることによって、デフレ起きていた』のでした。
デフレが起きると、価格を下げた状態で販売しているため、売り上げが上がりません。売り上げが少ないと、企業・従業員にお金が払えません。
そうなると、消費者も持っているお金が少なくなってしまうため、節約しようと励みます。すると、購入意欲がさらに下がってしまいモノが売れません。以降その状態がループしてしまい、不況に陥ります。
そこでケインズが考えたフローが以下でした。
そして、民間投資、政府支出、個人消費の詳細は、
- 民間投資の増加 → 消費者にお金を行きわたらせ、消費を促す
- 政府による公共事業 → 失業者を減らす ≒ 消費者にお金を行きわたらせ、消費を促す
- 政府による債券の購入 → 民間投資の際の利子率を下げる
- 上記3項目によって、個人消費が増える → 有効需要が増える
でした。
この辺りの経緯をもう少し見ていくと、
となっています。
ポイントは、
利子が高いままだと、民間投資が滞ってしまう
というところです。これを解消するために、政府が介入して市場の債券を買います。すると、市場にあるお金が増えます。すると、利子とお金の量の関係から、利子率が下がり、民間投資を促す効果として現れるわけです。
また、忘れてはならないのが、個人消費の増加です。ケインズ経済学を理解しよう②【限界消費性向 編】でも言ったように、限界消費性向を上げることが大事になってきます。
ケインズの考えは、一連の流れに沿っているため、ひとつでもちぐはぐな対策をしていると不況からは脱せません。
いくら民間投資と政府支出を上げたところで、例えば消費税を上げたりすると、個人消費は促せないでしょう。そうすると、全体のGDPは確かに上がるかもしれませんが、個人消費は前回と比べたら下がっていると考えられます。
以上がこれまでのケインズ経済学のまとめになります。
スポンサードサーチ
参考文献とまとめ
3回分に及ぶケインズ経済学、どうでしたか?ざっくり内容がつかめましたでしょうか?
ケインズ経済学の中で行われていることは、実際に今でも行われています。
政府による公共事業や金融緩和政策もそのひとつです。金融緩和の中身は、『政府が市場の債券を買って、お金の流通量を増やす』という事です。まさに先ほど学んだことと同じです。
ケインズ経済学を理解しよう①【アダムスミス・マルクス編】
ケインズ経済学を理解しよう②【限界消費性向 編】