検査前確率とベイズの定理(補足)

数学 生物

ここではPCR検査はガンガン実施すべき?で取りあげている検査前確率について補足している

もくじ

取りあげている例題は以下である。

ある市では1000万人いる。
ここで、市民全員に対してPCR検査を行った。ここで実際の感染者は1万人とする

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検査前確率とは

検査前確率とはいわゆる罹患率のことである。
罹患率とは、その人が感染しているであろう確率の事だ。例で言えば市民1000万人に対して1万人が感染していることから、この場合の罹患率は0.1%となる。

しかしながら、これだけではそれがどうしたと言われかねない。
もう少し攻めていこう。

ありがちな例題で考える

何やら不安だからPCR検査をしてくれ、という要望は実際にありそうだ。
という事で以下の様な例題を出してみる。

1000万人の市民のうちの1人Aさんが『何やら不安だから検査してくれ』ということでPCR検査を受けて陽性と診断された。
さて、Aさんは本当に新型コロナウイルスに感染しているのだろうか?

ここで重要になってくるのが、罹患率0.1%の他に、感度と特異度である。
感度と特異度に関しては以下を参考にしてほしい。とりあえず、ここでは表にまとめた。
参考:特異度と感度

検査で陽性 検査で陰性
感染 70% 30%
非感染 1% 99%

また、人数もそれぞれ入れて計算すると以下になる。

検査で陽性 検査で陰性
感染 ①7000 人 ②3000 人
非感染 ③約10万人 ④989万人

では実際に求めていこう。
この市におけるコロナウイルスの罹患率は0.1%、市民全体では1000万人であるから、感染していて陽性と診断される場合は、
$$ 1000万人\times 0.001 \times 0.7 = 7000 人$$
となる(表の①に該当)。

また、感染していないが陽性と診断される場合は、
$$ 1000万人 \times (1-0.001) \times (1-0.99) = 99900 人$$
である(表の③に該当)。

よって、全体のうち、本当に感染していて陽性と診断される確率を求めると、
$$ 7000 / (7000 + 99900) = 0.0065… ≒ 0.65 \% $$
となる。

つまり、陽性と診断されたとしても、感染しているかどうかは0.6%ぐらいという訳である。
これでは『俺は感染している!』と胸を張って言う事はできない。

罹患率を上げてみる

今までは罹患率が低かったため、散々な結果になった。
しかしながら、罹患率を上げることができたらどうだろうか。
すなわち、0.1%→80%まで上げることができたとすると、結果は以下のようになる。

この市におけるコロナウイルスの罹患率は80%、市民全体では1000万人であるから、感染していて陽性と診断される場合は、
$$ 1000万人\times 0.8 \times 0.7 = 5,600,000 人$$

また、感染していないが陽性と診断される場合は、
$$ 1000万人 \times (1-0.8) \times (1-0.99) = 20,000人$$
である。

よって、全体のうち、本当に感染していて陽性と診断される確率は
$$ 5,600,000 / (5,600,000 + 20,000) = 0.9964… ≒ 0.99 \% $$
となる。
この場合は陽性と出たら99%感染していると胸を張って言う事ができる。

罹患率を検査前確率に言い換える

上の結果を見てどう思っただろうか。『罹患率が高いのだから当たり前だろ』という声が聞こえてきそうだ。

しかし、先程の罹患率0.1%というのは、『(何も症状を見ずに)1000万の市民のうちの0.1%が感染しているだろう』というものだった。
それならば、症状を見ることで感染している可能性が高い人を抽出できれば罹患率の割合を上げることができないだろうか?

新型コロナウイルスに関するケースだった場合、以下のようになるだろうか。

・1000万人のうち、990万人は目立った症状もないため、医師は感染なしと判断。この場合はPCR検査は行わない。
・残り10万人いるわけだが、そのうち8.75万人は怪しいが、別の病気と医師が判断したとする。この場合もPCR検査は行わない。
・さて、残りはコロナっぽい熱、咳、だるさを訴える1.25万人が残った。この1.25万人に対してPCR検査を行う。

このうち1.25万人のうち1万人の感染者がいたとすると、$ \frac{1万人}{1.25万人} = 0.8 = 80 \% $となり、8割は感染しているといえる。

先程は感染しているであろう確率は0.1%だったが、80%まで上がった。
感染しているであろう確率が80%であるとき、陽性と診断されれば99%の確率で感染していると言えるのは先ほども述べたとおりだ。

これが『検査前確率を高くする』ということである。
感染の疑いが強い人に対してPCR検査を行うことで、検査結果が確実になるわけだ。

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まとめ

今回は検査前確率と陽性の確実性について述べた。
検査前確率(罹患率)が低い状態では陽性の確実性は低い。しかし、感染の疑いがある患者にだけ絞ることで検査前確率を上げることで、陽性の確実性は強まる。

このあたりはベイズの定理とも絡むところなので、興味がある人は勉強してほしい。