ケインズ経済学を理解しよう②【限界消費性向 編】
前回:ケインズ経済学を理解しよう①【アダムスミス・マルクス編】は、アダムスミスとマルクス、デフレについて説明しました。
今回は、デフレが起こす不況を脱却するために、ケインズはどのように考えたのかについて解説していきたいと思います。
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デフレから脱却するには?
まず思い抱いてほしいのは、世の中にモノが余りすぎていることでデフレになっているのでした。
となれば、逆にインフレすればいいのです。
インフレというと、『モノの価値が上がる』意味でとらえがちですが、裏を返せば、インフレになるという事は、『買いたいという思いがものすごくある(=需要)』という事を意味します。
需要が多いから、人々がモノを買い、企業が儲かり、それによって企業が事業を大きくしていくために、設備投資や従業員を雇うことに繋がります。
よって、不況から脱するには、どうやらインフレにすることがカギの様です。インフレになれば、企業が儲かり、さらに要望に応えるために、従業員を雇うため、失業者問題も解決されそうです。
ひとまずはインフレにするという事をゴールにして考えてみましょう。
インフレにするには?
インフレにするためには、需要を上げなければなりません。
そして、この需要というのは、一時のものではなく、ある程度長期的に続く必要があります。失業者問題を解決するということは、従業員を長期で雇う事を前提としているからです。
さて、この長期的な需要を、有効需要と名づけておきましょう。
この有効需要を上げることが、どうやら不況の打破に繋がりそうです。
有効需要を増やすには?
次に、有効需要を増やすことを考えてみましょう。
有効需要が増えるとは、すなわち、GDPが増えることを意味します。
GDPとは国内総生産と呼ばれますが、つまりは『ある機関において、国内でどれだけお金が使われたか』を表しています。
そしてGDPには大きく4種類があります。
- ①個人消費:
一般市民による買い物などの消費 - ②民間投資:
企業による設備購入、材料の仕入れ - ③政府支出:
政府が国内のモノを買う - ④純輸出:
外国が国内のモノを買う事(輸出量)
このGDPを上げることが、有効需要を上げることに繋がります。
よく見るGDPのグラフはこんな感じでしょうか。
GDPで押えておきたいのは、国内のモノがどれだけ売れたのか、ということです。
なので、輸入は外国の方で儲かるため、輸入はGDPには入りません。
また、企業においてモノを買うと、消費ではなく、投資と呼ばれます。そのため、企業による設備投資・材料の仕入れなどは民間投資として計上されます。
GDPをどのように上げるのか
ですが、簡単にGDPを上げると言っても難しそうです。
そもそもデフレの状態で、どのように個人消費を上げるのでしょうか。
お金が無いので節約しているはずなのに、すんなりと需要を上げることは難しそうです。つまりは、①の個人消費を直接上げることは難しいことが分かります。
そこでケインズが考えたのは、
民間投資と政府支出を上げればいいのではないか、
ということです。
- ②民間投資:
企業による設備投資・材料の仕入れなど - ③政府支出:
政府が国内のモノを買う
民間投資の場合
民間投資が上がるとは、設備投資や、短期的に人を雇うということです。
もちろん、何でもかんでも投資すればいいのではなく、あくまでも『これができれば、いまよりもっと儲けれる』という戦略が根底にある企業が前提になります。
そして、うまく成功すれば従業員に安定的に給料が支払われるかもしれません。さらにうまくいけば、お給料アップという形で返ってくることが想像されます。
政府支出の場合
政府支出は、例えば、税金を使って公共のモノを作るという事です。
日本であれば、耐震や耐津波のための道路や建物、堤防の強化などが挙げられます。
これらの公共事業を行う為に、失業者をある期間雇います。
こうすることで、月0円になるはずの失業者に対し、例えば月20万円のお金を渡すことに繋がります。大恐慌が起こった時代では、民間の企業が設備投資をする体力が残っていないことが多いため、政府が介入し、公共事業によるを起こす事は非常に重要です。
問題はまだある
しかしながら、これらを上げることで、確かにGDPのうちの民間投資と政府支出は増加しますが、個人消費が上がるわけではありません。
一番大事ともいえる個人消費を上げるにはどうすればいいのでしょうか。
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個人消費も上げるには?
そこでケインズ経済学で重要になるのが、以下の式です。
(この式が正しいのかという検証は別の機会に行います)
また、式中の乗数は、
乗数に注目してください。
この限界消費性向(げんかいしょうひせいこう)が上がれば、GDPの個人消費が増え、結果的にGDP増加に繋がります。
限界消費性向って何や?
では、この限界消費性向とはなんでしょうか。
限界消費性向とは、
所得が増えたとき、どれだけ消費をするか
ということです。
身に覚えがあると思いますが、お給料が増えたら、モノを買う機会が増えます。それを数式に落とし込んだものです。
例えば、月にもらえるお給料が、10万円から20万円になれば、『今まで買えなかったやつ、これを機に買ったろ!』となるはずです。
このとき、増えた10万円のうち、8割(つまり8万円)を消費に回すと考えると、
となります。
現在の所得である20万円に対してではなく、増えた分の所得に対してかかることに注意してください。
また、消費8割のうち、残り2割は貯蓄を意味します。つまり使わずに、ため込むということですね。
消費することでGDPが増加する
ちょっと小難しい話になってしまいました。
ですが、ケインズが言いたかったことはは、個人消費が多くなれば(限界消費性向が大きくなれば)、GDPが増加するということです。
その個人消費を上げるためには、投資を上げればいいという事です。
さて、ケインズのGDP増加の式に対して、限界消費性向によってどれぐらい変化するのかを見ていきましょう。
でした。乗数を限界消費性向を含む式に直すと、
上記の式に対して以下の値を入れてみましょう。
- 投資の増加分:1兆円
- 限界消費性向: 0.8
すると、
となり、2兆円のGDP増加が見込まれるわけです。
この式で言いたいことは、ただ、投資だけすればいい訳でなく、
『個人の消費も促していく必要がある』ということです。
個人消費を表す限界消費性向が小さければ、見込まれるGDP増加分も少なくなります。
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まとめ
さて、もう一度まとめてみましょう。
【デフレ】から始まり、最終的には【投資の増加】と【個人消費を促す】ようにすれば良いことが分かりました。
個人消費を促すとは、例えば消費税などを減らしたりなど、買いやすくする工夫が必要です。消費税が上がれば、当然財布のひもは固くなります。投資の増加と個人消費を促すこと、これらの対策が同時に行われなければ意味がありません。
次回は民間投資部分に視点を当て、解説していきます。
投資というと聞こえはいいですが、要するに借金して設備投資をするという事です。そうなると切り離せないのが、利子です。