【アート】を解剖する

美術

みなさん、アートと聞くと何を思い浮かびますか?
『よく分からない』が正直な所じゃないかなと思います。

例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチ・の『モナ・リザ』を見たときは『ああ、なるほど、これはアートだよね』と8割方納得するでしょう。

しかしながら、ピカソの絵を見た場合は、『これは…アートなのかな?』と疑問を持った方も多いはずです。この記事を読んだ後は、その理由がちょっぴり分かるんじゃないかと思います。

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年代でアートのベクトルは変わる

アートと呼ばれるものは、年代によって『力の入れている部分』が変わります。
そしてそれは大きく二つに分けることができます。

  • ルネサンス~19世紀
  • 20世紀~

ルネサンス~19世紀の時期と、20世紀以降です。

ルネサンス~19世紀

このころのメインは『宗教画』と『貴族の肖像画』でした。

このブログでも解説していますが、簡単に言うならば、
『会員募集のために偶像崇拝を解禁する』ところから始まります。
キリスト教において、ビジュアルの面による布教を解禁したことがきっかけで絵描きが生まれました。

見てみれば分かりますが、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた絵は宗教画か肖像画です。その後印象派と呼ばれる人たちが出てきて、はじめて『風景画』や『庶民の日常』がメインの絵が登場します。

このような形で様々な画登場していくわけですが、このころの考え方はみな共通していて『リアルな絵』を描くことがアートでした。そのためレオナルド・ダ・ヴィンチは評価され、その技法を後の絵描きが真似していったわけです。

20世紀~は何が起きた

ところが、あるものが登場したことで状況が一変します。
それは『カメラ』の登場です。

これまでの絵描きは、リアルに描くため何か月もかけてひとつの作品を仕上げるわけですが、カメラの登場によって2、3日でそっくりそのまま出来上がってしまいます。ルネサンスから始まった、『リアルこそがアートである』という思想は、カメラの登場を境にその思想はボケてしまいます。

アートはどうなった

しかしながら、絵描き・アーティストは滅びませんでした。
考えを変えたわけです。
『アートにしかできないことをやろう』
それが20世紀以降のアートの考えです。

  • 19世紀まで:リアルに描く
  • カメラの登場
  • 20世紀以降:アートを模索&固定観念からの解放

6作品からアートを読み解く

そこで、20世紀以降の6作品を紹介して、アートへの探求を如何にしてきたのか、という事をざっと紹介していきたいと思います。

マティス:緑の筋のあるマティス夫人の肖像

1人目はマティスの緑の筋のあるマティス夫人の肖像です。
さて、リンク先の絵を見てどう感じるでしょうか。お世辞にもうまいとは思えないのではないでしょうか。

では、マティスのこの絵で何を訴えたかったのでしょうか。
この絵をよく見ると、色々な色で構成されています。鼻筋は緑で、右半分・左半分でも色が違います。塗り方でも違いがあることが分かりますね。

さて、この絵を通じてマティスが訴えていることは
目に映るそのままを描かなくでも良いということです。

レオナルド・ダ・ヴィンチの登場以来、『リアルに描く』という事が求められていました。見たまんまに描くという事がその当時の正解でした。
しかし、マティスのこの作品は、その固定観念を破壊した作品=『思考』と言えるでしょう。

ピカソ:アビニョンの娘たち

ピカソは聞いたことがありますね。カクカクして、どっちを向いているか分からないような印象を受けます。そして、問題の作品は、アビニョンの娘たちです。

答えを言う前に、ひとつ考えてほしいことがあります。
例えばサイコロをリアルに描いてくださいと言われたとき、あなたならどう描くでしょうか?ちなみに私なら、斜め45度の角度からみて、3つの面が見える形で描きます。みなさんも同じように描いたのではないでしょうか?

しかし、サイコロの見えない3面は、本当にあるのでしょうか?例えば、2が見えているとして、その反対面は5になっているはずです。ですが、見えていないその面は6かもしれませんし、4かもしれません。はたまた何も書かれていないかもしれません。何が言いたいかというと、斜めから見たサイコロは、本当にリアルなのかという事です。

描き方としてのリアルではなく、見えない面が実在するのかという点を考えてみて下さい。そう言われてしまうと単純なサイコロですらリアルに描くことは難しいですね。

さて、ピカソの『アビニョンの娘たち』はまさにそのようなリアルさを問う作品でした。レオナルド・ダ・ヴィンチがはじめた遠近法という表現は、現代でも当たり前のように使われています。しかしながら、遠近法で描くことができるのは、ある一つの視点から見た場合のみです。

アビニョンの娘たちでは、いろんな視点から見たものをまぜこぜにすることでによって遠近法ではないリアルを追求しました。

カンデンスキー:コンポジションVII

次はカンデンスキーによる、コンポジションVIIです。綺麗だけれども、もはや何を描いているか分かりませんね。

カンデンスキーが描いたこの作品は『具体的』を壊すものでした。それまではアートと言ったら人やモノや風景だったりと『これ』というものに断定できました。カンデンスキーは音楽に造詣(ぞうけい)があったため、抽象的である音楽を絵にしたそうです。アートと言えば具体的なもの、その概念を壊したわけですね。

デュシャン:泉

さて、デュシャンは何でしょうか。言ってしまうと、
『男性用便器を取り外して、サインを描き、写真を撮ったもの』です。これに泉というタイトルを付けました。です。しかも、サインもデュシャンではなく架空の人物です。

『男性便器なんてこんな汚いものがアートであるはずがない!』と誰もが思うでしょう。そんな固定観念を破壊した作品でした。

さて、ここまでで途中経過をまとめてみましょう。

  • マティス:概念の破壊
  • ピカソ:遠近法の破壊
  • カンデンスキー:具体的の破壊
  • デュシャン:の破壊

目に映る色や遠近法の破壊から始まり、カンデンスキーの抽象的な面での固定観念から解き放たれて行っていることが分かりますね。ですが、デュシャンまでは、どの作品も根本に『アートとは美しいものであるべき』という考えが根底にありました。
この根本を打ち破ったのがデュシャンです。デュシャンのこの作品は20世紀最大の衝撃作になりました。

ポロック:ナンバー1A

さて、もうこれ以上壊すものはあるのでしょうか?
ポロックのナンバー1Aを見てみましょう。なんかこう、絵具が塗りたくられていますね。カンデンスキーのようなうねうね・もやもやしたような抽象画とはまた別のようです。

答えを言う前にまた一つ考えてみましょう。ノートに鉛筆でリンゴを描いたとします。これを街中の人に見せたら何と答えるでしょうか?おそらくリンゴと答えるはずです。誰も『紙に鉛筆の黒鉛が載っているもの』とは答えません。

では、ポロックのナンバー1Aを最初に見た感想は何でしたか?
『絵具を塗りたくった作品』じゃありませんでしたか?そうです、ポロックの作品は『アートはイメージを描くもの』という固定観念を壊しました。

ノートに描かれたリンゴはあくまでもリンゴのイメージです。カンデンスキーのコンポジションVIIの抽象画ですら、音楽という抽象的なものをイメージして作られたものです。そして、今まで誰も『紙の上に載った黒鉛』とは表現しなかったわけです。

ウォーホル:ブリロ・ボックス

最後にウォーホルのブリロ・ボックスです。なにやらアメリカンな箱ですね。ちなみにこれは絵ではなく写真で取ったものです。
この箱の何が凄いのでしょうか。正直、固定観念を壊すものはもうなさそうです。

その前にまたひとつ考えてみましょう。『モナリザ、ダビデ像、ノートルダム大聖堂、日清カップラーメンの中で、美術作品を選べ』という問題があったとしましょう。あなたならどれを選ぶでしょうか?ちなみに入試試験の問題で出たとします。

モナリザ、ダビデ像はとりあえず丸を付けそうですね。迷うところはノートルダム大聖堂です。芸術的ですが、建築物であり実用的なので少し怪しいところかもしれません。
カップラーメンはどうでしょう?いわずもがなですね。入試試験でカップラーメンを美術作品として丸を付ける勇気はありません。

さて、ブリロ・ボックスに話を戻しましょう。ブリロ・ボックスは日本でいうところの洗剤のアタックです。つまりはブリロ・ボックスはアメリカで誰もが知っている洗剤なんですね。

ウォーホルは、木箱にシルクスクリーンという技術を使って、ブリロ・ボックスのパッケージのごとく仕上げ、それをたくさん並べたわけです。彼の作品には他にもトマト缶が好きだったため、トマト缶をずらりと並べている作品もあります。
洗剤としてのブリロ・ボックスは実用品で、誰でも手に入るものです。これはさっきの『日清カップヌードル』に似ていますね。実用的で、コンビニやスーパーでも売っているありふれたものです。

ウォーホルのブリロ・ボックスが訴えていることは、
『ありふれたものはアートではない』と思っている固定観念の破壊です。デュシャンやポロックの作品でさえ、一点ものであり、量産できません。

私たちは、生活で手に取れるようなものをアートと呼ぶとは微塵も思っていませんでした。しかしながら、そうなるとアートとアートでないものの区別は何でしょうね。ここまでの話を聞くと、ちょっぴりアートに興味が出てきませんか?

ざっとまとめてみよう

さて、これまでの6作品をまとめてみましょう。

  • マティス:リアルな色の破壊
  • ピカソ:遠近法の破壊
  • カンデンスキー:具体的の破壊
  • デュシャン:美の破壊
  • ポロック:イメージの破壊
  • ウォーホル:アートの区別の破壊

と言ったところでしょうか。以上が20世紀におけるアートの特徴です。

19世紀までは、いかにリアルに描くかという成果物に対しての重きが強かったのですが、20世紀からは、アートを生み出す思考の方に比重が置かれています。リアルに描くことはカメラの登場によって薄れてしまったからでしたね。

13歳からのアート思考ではもっと詳しく載っていますので、ぜひご購入ください。

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参考文献

「自分だけの答えが見つかる13歳からのアート思考」末永幸歩(ダイヤモンド社)